スノーボールを眺めるのが好きだ。丸いガラス玉の中にジオラマがあり、ひっくり返したり、ふったりすると、その中を雪片が舞う。静かで、清潔で、祝福された小宇宙がそこにある。
この季節になると、かならずひとつは欲しいと思うのだが、どうも気に入ったものが見つからない。昔、雪の代わりに小さな札束が舞うスノードームを見かけたことがある。ドームの底には、デスクに腰掛けベストを着たジャック・レモン風の男の人形があって、天を仰いでいる。そんな彼に札束が降りかかるという技ありのスノードームだった。つい、あれくらいのインパクトをスノードームに求めてしまう。この本の写真にあるスノードームならば、どれでも欲しいと思うのだが。
スノードームの中にあるのは、雪深い森。静かで平和な空間のはずだが、どこかおかしい。雪山で巨大な蜘蛛が人を襲っている。子どもを井戸に投げ込んでいる労働者風の男たちがいる。氷山から今にも滑り落ちそうなロッジのそばで、うなだれている男がいる。そして木のそばで恋人と待ち合わせているらしき女性に、忍び寄る狼がいる。彼らの上に、ただ雪は降り積もる。残酷な情景も、不可思議なシチュエーションも、全ては浄化され、不思議な静けさに包まれている。
ウォルター・マーティンとパロマ・ムニョスは、このスノードームとジオラマのシリーズで有名になったアーティストのコンビだ。彼らの作品集が、ハンディなサイズで発売されたことは嬉しい。ページをめくれば、スノードームに顔を寄せたかのように、そこに収められた小世界をじっくり見ることが出来る。どのスノードームも、物語の予感をはらんでいる。
スノードームと同じく、雪景色をバックにしたジオラマ・シリーズの「Island」も収録されており、こちらも負けず劣らず魅力的だ。人々が浮遊し、遊んでいるかのようなジオラマ。人を養分にして育つ木々。雪深い森を抜けていく老人のあとをつけていく幽霊たち。木の上の小箱で飼われている小人。シュールな物語性は、更に強まっている。
彼らの作品からインスパイアされたと思しき、ジョナサン・レセムの短篇が最後に収録されている。「トラベラーズ」と名づけられたその物語には、具体的な旅は出てこない。雪深い田舎に引っ越してきた「旅人」という男が、ある夜、森の中で狼たちに赤ん坊が入ったバスケットをもらうという話である。翌日、男は、離乳食代わりにチーズを与えて一緒に一晩過ごした赤ん坊を、隣家の小作人の美しい七人の娘たちに奪われてしまう。どこかシュールで、孤独を感じさせる短篇だ。
岸本佐知子の『変愛小説集』を今年のフェイバリット本に挙げている友人か恋人に、これ以上ぴったりなクリスマス・プレゼント本はないと思うのだが、どうだろう。