けんたという少年の影の中から生まれた、影の子「かげまる」。かげまるとけんたの、爽やかでけなげな成長物語です。
人気のベテラン画家の描く絵は、物語と渾然一体。なんとも愛らしいかげまるの表情は、読者の心をつかんではなしません。読み終わるころには、忘れられないキャラクターになっているにちがいありません。
前作である第一弾の『かげまる』では、赤ちゃんのときからずっと一緒だったふたりに、微妙な溝ができてしまいます。悩んだかげまるは、一大決心。旅に出ます。旅先でいろいろな人や動物たちに出会って、少し大きくなって、またけんたのもとに帰ってくるというストーリー。(小学校中学年の部・課題図書)
今回ご紹介の第二弾『かげまる はなれていても、いっしょ』では、かげまるは旅をしません。ただし、けんたが心の旅に挑戦します。「一人で学校に行く」ことを決めたのです。
困ったときや悲しい時、いつだってかげまるに相談すれば、元気になれるけれども、【ひとりでもがんばれる、強くてかっこいい子になりたいと思った】からです。
途方にくれるかげまるに、けんたの本当の気持ちを教えてくれたのは、大人になっている影の子・シャドウさんです。シャドウさんは、肝心なとき、影の子たちの前に現れて、大切なことを話してくれます。
シャドウさんは、こうも言いました。
【光があるから、かげがあるんだよ。だから、おれたちかげにとって、光はとても大事なんだよ】
このセリフに、ゲド戦記の『影との戦い』を思いだしました。
力を身につけ、自分自身が大きくなれば、影も伸びて成長してきます。思春期で成長期のゲドは、いつ自分を襲ってくるかもしれない「影」の存在におびえるのです。どんなに逃れようとしても、自分と同じようにたくましくなっていく影は常に対になっているのです。ゲドは、影という「敵」に戦いを挑みます。
光と影は、表裏一体。生きているかぎり誰にでもあるもの。そのことをゲド戦記では、驚異のライバルとして描いています。
ところが、この本の中で、シャドウさんは、かげまるにこう諭します。
【かげまるとけんたは、やっぱり、とてもいい友だち同士だ。かげまる、けんたのかげのなかに生まれて、よかったな】
作者の深い愛情が伝わってきます。思わず、(わたしの中から生まれた影は、よかったと、言ってくれるだろうか)と、胸に手を置いてしまいます。
かげまるがけんたと共に成長するとき、シャドウさんの存在は強力な促進剤です。
シャドウさんは、もともとかずおくんという男の子から生まれた影の子でした。ところが、かずおくんは重い病気で大人になれずに、亡くなってしまいました。亡くなる直前に、かずおくんはシャドウさんにお願いをしたのです。
【ぼくがなれなかった、おとなになって。おとなのかげになって。そうして、これから生まれてくるかげの子たちに、教えてあげて。ぼくが、きみがいて、すごくうれしかった、っていうこと。かげの子たちは、ぼくたちの、とても大事な友だちだ、っていうこと】
かずおくんの透明で清らかな思いが、凛とした空気の中、朝靄のように立ちのぼっていきます。心洗われます。
私たち、大人は、かずおくんのように幼くして消えてしまった命の叫び声にちゃんと耳を傾けているのでしょうか。そんなことさえも考えさせられる作品です。
中学年(小学校3・4年生~)向けの作品なので、リズミカルで軽快なわかりやすい文章。しかし、わずか60数ページの物語の中に、人生にとって「かけがえのないもの」はなにか? ということが示唆されている逸品です。
さて、けんたは遠足にいくことも、直前までかげまるに隠していました。ショックで落ちこんだかげまるでしたが、猫ののらきち(この存在がまたいい)の粋な?!アドバイスのおかげで、こっそりついていくことにしました。
さあ、またドラマは盛りあがってきます。
かげまるのたまらない愛らしさを、存分に味わってください!