□種類にもよるが、生き物はまぁ嫌いじゃない
□くだらないことが好きだ
□"ロハス"とか"スローライフ"とか聞くと、ちょっと「ケッ」と思ってしまう
□職場のトイレの窓から見える夕陽にしみじみしてしまう時がある
上記項目が2つ以上当てはまるお客さま。精神(こころ)の惣菜(おかず)に『とりぱん』をぜひ~
というのが単行本のオススメ文だが、どれだけ当てはまりますか?私が当てはまったのはちょうど2つ。そうだそうだ、何がロハスだスローライフだ!と息巻く私は『とりぱん』入門者としては平均層のようだが、はまってしまった。
『とりぱん』という書名のため(とりぱんの“ぱん”は餌としてあげるパンのことだそうだ)、鳥愛好家のための本!?と長らく手に取ることがなかったのが悔やまれるものの、もともと『とりぱん』との出会いは、鳥大好き、鳥写真撮影も大好き、鳥類図鑑眺めるのも大好き…という夫にしつこく勧められた本である。そういうことで「あ、カワセミ!」と目がハートマークになるような人が読むものだと思い、鳥のことをちっともわからない私は食わず嫌いをしていたわけだ。
その時間がもったいなかったこと。鳥を餌づけし、母のように見守るその視線が優しいながらも冷静で、とりのなん子&鳥たちの生活・生態が興味深い。四コマ漫画が基本だが、しみじみとした滋味あふれる随筆のような、エッセイのような漫画だ。高らかに鳥や自然を歌い上げるのではなく、こんな生活ですが…というような姿勢は低いが目線は高い、そんな視線が共感を生む。
東北地方のベッドダウンにある一軒家(家庭菜園もしているそう)に住むとりのさんの庭には、自然界の様々な鳥たちがやってくる。まるで鳥たちのお母さん的存在だが、キャーッ、カワイイ!という高いテンション・視点では書いていないのが、鳥に詳しくない人が読んでも面白いゆえんかも。淡々としていてマニアックな世界なのに狭くない、俯瞰する視点と冷静さによるものだろう。
「まったく態度のでかいやつもいるもんだ」「貧乏くじばっかりひいて」――人間界と同様に、鳥たちのキャラクターが面白い。アカゲラ、アオゲラ、ヒヨドリ、ツグミ、ムクドリ、シジュウカラ、セキレイ、オナガ…作者の豊かな感性&鋭い観察力で描く鳥の日常と、ユニークなキャラには、思わず顔がほころんでしまう。
朝、屋根を伝う足音の違いで「これはスズメ、これはハト…」と鳥の種類を察知するなど、かなり高度?な技を見せるとりのさん、画中には三十代後半の(年齢不詳なので推測)等身大の女性が描かれているようで、やっぱりちょっと変?
たくさんの鳥の生態を把握しながらも、よくもまあ、鳥に表情と性格をしっかりと与えて、あだ名をつけて特徴をとらえているものだ。鳥たちの生態が遺憾なくみられる「瞬間」をとりのさんは見逃がさない。
とりのさんの正体は不明である。メディアへの顔出しは一切なし。会った人によると“すらりとした美人”という噂だが、画中では無造作に縛り上げた髪の毛が鳥の尾っぽのように立っている。顔出しを好まない以上、その素顔を探りだすのも野暮というものだが、こんな生活をしている人はどんな人なの~?という好奇心がかきたてられるような、楽しんだ生活をしているように思う。
岩手にある農場に就職するも、ストレスにやられ、漫画家を目指して退職、一作目に応募した『とりぱん』が第17回MANGA OPEN大賞を受賞。『週刊モーニング』での連載がはじまり、人気漫画となったとりぱん。
冷凍ストッカーに大量のパンの耳を詰めこんで常備し、アメリカ産のオレンジも鳥たち用に用意し…とりのさんが鳥たちのために惜しみなく使う鳥のエサ代、すごいわ~。鳥に興味がなくても、しみじみとその世界は滋味深く、自然に触れたい!ひっこしたい!と豊かな暮らしに俄然憧れてしまうのは、あまりにも影響受けすぎ!?かもしれないが、それもとりのなん子ワールドののんびりしながらもビビッドな自然の描き方の賜物であろう。
自然の奥深さに読んでいると胸の奥がぎゅうっと締め付けられるような気持ちにもなり、鳥の声がピッーピー(?)ではなく、人間の言葉として聞こえてくるかのような一冊だ。