「爆笑・災害サバイバルノウハウブック」。この本の内容をひとことで表現すると、こうなるだろう。……と書くと「災害サバイバルで『爆笑』とは何ごとか」と地震カミナリ火事オヤジ的な抗議が殺到しそうである。「キサマ、地震のないオーストラリアなんぞに住んで、災害の恐ろしさがわかっておらんから、そんな紹介の仕方ができるのだ」と、筆者の西村淳さんだけでなく、私にまで火の粉がおよぶかもしれない。
いやいや、私は災害の恐ろしさを知っているのだよ。日本でのサラリーマンをして、大阪支社に転勤になり兵庫県芦屋市に住んでいたとき、阪神淡路大震災に遭ってしまった。住んでいた地域は震度7。借りていたマンションは「半壊」認定。電気だけは一時間後に通ったが、水もガスも出ないので、三日後、妻と子どもたち(一歳十カ月と生後一ヶ月半)を普段なら一時間強で着く姫路市の彼女の実家に、迂回を繰り返しながら五時間かけて車で送り届け、私は会社の用意してくれた大阪市内の貸し社員寮やホテルで二ヶ月過ごした。
避難所やテントで過ごしたわけではないが、がれきの山に囲まれて、倒壊した阪神高速道路神戸線も目の当たりにし、風呂どころか飲み水さえも手に入らず、暖も取れない日々を送り、災害の何たるかは知っているつもりである。三十五歳でオーストラリアに移住したのだって、被災して「人間はいつ死ぬかわからない」と悟り、「やりたいことはすぐやろう」と決めたからなのだ。そんな体験を持つ私がオススメする災害サバイバルブックがこれなのだ。
筆者は「地震などの災害時、防災グッズはがれきの下ということも多い」というが、まさにその通り。そんなとき、タイトルにあるとおり『身近なもので生き延びろ』となるわけで、この本には本当にそこいらに転がっているものを利用する数々のアイディアがちりばめられている。
と書いてもスルドイ読者の方は、「でも防災グッズががれきの下なら、この本もがれきの下だろう」とツッコミを入れられるかもしれない。どうぞどうぞ、遠慮せずに、ぜひ入れていただきたい。そのツッコミこそ、この本の存在意義と大きく関係するのだから。
おっしゃるとおり、震災のときはこの本も含めサバイバルブックの類をアンチョコとかカンニングペーパーのように取り出して確認するわけにはいかない。テストと同様、内容を覚えておくしかないのである。
何かを覚えておくには工夫が要る。たとえば、「いい国つくろう鎌倉幕府」とか「イッヒリーベ僕の船」とか「ひとよひとよのひとみごろ」とか、ゴロ合わせも一つの手法。そして、この本の著者がとった「笑わせること」もまた、一つの方法である。スピーチでもつまらない話はまったく頭に入ってこない。だがユーモアたっぷりなら、腹を抱えて笑いながら、記憶に残る。予備校でも爆笑の嵐を呼ぶ人が人気講師となるのは、生徒たちが笑いながら必要なポイントを覚えることができるからだ。
では筆者の紹介する「身近なものでできるサバイバル」の手法を一部紹介してみよう。
〈週刊誌でヘルメット〉。腕や足が骨折したり肉離れを起こしたりしてもきちんと手当さえすれば通常命に別条はないが、頭蓋骨骨折や脳挫傷は即、生命の危機につながる。そこで落下物から頭を守るために、週刊誌2冊を頭に載せ、ひもやテープ、長そでシャツで固定させれば、簡易ヘルメットのできあがり。
〈ブルーシートで雨水を集める〉。水道が通らなくなったら「雨水をバケツにためろ」などとよく言われるが、そんなものたかが知れている。たとえば降水量「100ミリ」というと一時間で降れば「豪雨」、一日でも「かなりまとまった雨」と表現されるが、バケツに集めれば深さはたった「10センチ」である(バケツは通常逆円錐台形なので、実際はもう少し増えるが、それでも10数センチだろう)。そこで、筆者は建築現場などで使われるブルーシートを広げる。
そうすればバケツの内側だけでなく、ブルーシート上に降った雨すべてを集められるからである。
ちなみに、私の住むオーストラリアのブリスベンでは深刻な水不足に見舞われていて、各家庭で雨水タンクを設置していることが多いが(わが家にもある)、これは屋根に降って樋を伝ってきた雨水を、パイプを通してタンクに誘導するという方法を取っている。こうすれば、広い屋根に降った雨をすべてためることができるからで、「ブルーシートで雨水を集める」のも同じ原理だ。
あっ、ここで一つ思いついた! 降雨時に自宅または避難所となっている体育館や公民館の雨樋から下水道に伝わるパイプを切断すると、かなりの量の雨水が入手できるはず! それも、一つの手ですよね、筆者の西村さん?
そうなのである。この本では「ブルーシート」とか「それがなければレインコートを使って」と書かれているが、ブルーシートもレインコートもないからといって絶望してはいけないし、する必要もない。要は、ここで書かれている原理を応用して、バケツを並べるよりも広範囲の雨水を効率よく集める方法を考えればいいのだ、あなたの頭で。筆者が爆笑講義で教えてくれる要点さえ身につけておけば、「いざ」というときもきっと柔軟な発想で切り抜けられるはずである。大災害に勝つには、「知識」だけでは不充分。サブタイトルにあるとおり、「知恵と工夫」が必要なのだ。