さて、プロダイバーの誇りにかけて、Uボートの正体を確かめてやろうと周到な準備をして潜り始める。船上で、先に潜った者が「こう行くと、潜水艦のこのあたりに穴があるので、そこを入って左に行くとハッチがあって」というような説明をして、次に行く者が、迷うことなくそのハッチにたどりつき、開けて中に入り、様々な物の位置を確認して戻る。その報告を次の者に伝えて、といったように少しずつしか探索は進まない。長年つもった細かな泥は、非常に注意深く行動しても舞い上がり、海の底の暗い世界にさらに暗黒の世界を創り上げてしまう。そして、そこでダイバーたちの命が失われる。
ちょっと無理をして死んでしまう。先陣争いというより、何かを見つけたと思って確認しようと少しだけよけいに時間を使ってしまって死んでしまったり、何かの恐怖に掴まって潜水艦からスムーズに抜けられなくなってしまったりもある。気がつくと、海底で空気が足りなくなりパニックになって死んでいく者もでる。焦って動き回ることで泥をかき立てて暗黒の世界を創り出してしまうこともあるらしい。
潜水艦の中を夢中で探索しているうちに空気がなくなり、急いで戻ろうとしたとき方向感覚を失う。どんなに自分を戒めて潜っても、探求心が彼らを死に引きずり込んでしまったりする。読んでいて、息苦しくなる。潜水艦の映画を見ていて、海上から爆雷攻撃を受け、じっとし続ける「息詰まる時間」、あれと似たような気分を読みながら味わうことになる。
20分程度潜るだけで、水中で一時間近い休みを取らないと潜水病で死んでしまうという過酷な条件のもと。ダイビングの経験の豊富さからくる自信があだになって死んでしまう。
海賊と罵られた男たちが、命を懸けて闘った男たちのために解明してやらないでどうする? と心変わりしたりの男たちは潜り続ける。
Uボートの中に白骨となって残るドイツ兵たちに敬愛を込めつつ進む息苦しい探索が、ついに実る日が来る。
ついに型番を掴み、そのUボートがドイツ軍支配下のどの工場で造らせた物かもわかる。そして、アメリカの沖に直接行くような作戦はなかったが、そこに到る理由もおおよそわかる。
この謎の解明も非常に面白いが、海底にある一つの目標を探るためにプロのダイバーが次々に潜って、ほんの少しずつ解明していく日々が、面白い。
映画化されたのか、されるのか、それを見る楽しみはもちろんあるが、晩夏の休日、何時間かを使って優れたノンフィクションを一冊読むのもいいと思う。