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やし酒飲み

かれは才能にあふれていた、イギリス人がかれを拉致し、利用したくなるほど。

エイモス・チュツオーラ土屋哲
河出書房新社池澤夏樹 個人編集 世界文学全集 第1集小説] 海外
2008.06  版型:B6
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レビュワー/朱雀正道

チュツオーラの『やし酒飲み』(1952)を賛美するのはたやすい。西欧近代が失ってしまった神話的想像力がゆたかに息づいている、ガルシア=マルケス、ラシュディに先駆けるマジックリアリズムのすばらしい達成がある。原題は"The Palm-wine Drinkard"、この "Drinkard"という異様な語は、ピジン、あるいはクレオール的語法であり、そこになんらかの積極的な可能性を見出すことも、文学観しだいでは可能かもしれない。本文も平易な構文で書かれ、どうやらイギリス人の版元編集者の手は相当入っているらしい、J.M.クッツェーの『エリザベス・コステロ』のなかで、そういう指摘がある。エディティングにおいては、ところどころピジンの痕跡を残しながら全体的には読みやすく調子を整え、それでいてナイジェリアの神話に見られる〈juju〉とかれらが呼ぶフェティッシュのそなえたマジカルパワーへのエキゾティックな魅力を活かしているようだ。なるほど、賛辞はいくらでもつづけることができる、素敵な作品だもの。しかし、戦争と諜報の二十世紀の全容を見渡せるいま、おれは少し違った感想をもつ。チュツオーラさんって、もしかしてあまりにナイーヴで、あまりにお人よしだったのではないだろうか。はたしてかれは自分自身の人生を生きただろうか? 心ならずも、イギリス人に利用されてしまったのではなかったかしら?その可能性を考えはじめたときから、おれのそれまでのかれの作品への賞賛にかすかな憐憫が混じるようになった。とはいえ、いったいだれがかれを責めることなどできるだろうか、ましてや、ナイジェリア人でもない異国の読者のわれわれが。

 『やし酒飲み』のさわりを紹介しよう。

わたしは十になった子供の頃から、やし酒飲みだった。わたしの生活は、やし酒を飲むこと以外には何もすることのない毎日でした。父は、八人の子供をもち、わたしは総領息子だった。他の兄弟は皆働き者だったが、わたしだけは大のやし酒飲みで、夜となくやし酒を飲んでいたので、なま水はのどを通らぬようになってしまっていた。父はわたしにやし酒を飲むことだけしか能のないのに気がついて、わたしのために専属のやし酒造りの名人を雇ってくれた。彼の仕事は、わたしのために毎日やし酒を造ってくれることであった。当時は、タカラ貝だけが貨幣として通用していたので、どんなものも安く手に入り、おまけに父は町一番の大金持ちでした。父は、わたしに、九平方マイルのやし園をくれた。そしてそのやし園には五十六万本のやしの木がはえていた。このやし酒造りは、毎朝、一五〇タルのやし酒を採集してきてくれたが、わたしは、午後二時まえにそれをすっかり飲みほしてしまい、そこで、彼はまた出かけて夕方にさらに七十五タル造っておいてくれ、それをわたしは朝まで飲んでいたものだった。そのためわたしの友達は数え切れないほどにふくれあがり、朝から深夜おそくまでわたしと一緒に、やし酒を飲んでいたものでした。ところで、十五年かかさず、このようにやし酒造りは、わたしのためやし酒をつくってくれたのだが、十五年目に突然父が死んでしまった。

父が死んで六ヶ月たったある日曜の夕方、やし酒づくりは、やし酒を造りにやし園へ行った。やし園に着くと、彼は一番高いやしの木に登り、やし酒を採集していたが、その時ふとしたはずみに木から落ち、その怪我がもとでやしの木の根っこで死んでしまった。やし酒を運んでくれるのを待っていたわたしは、いつまで待っても彼が戻ってこないし、今までにこんな長くわたしを待たせたこともなかったので、友達二人を呼んでやし園までいっしょについていってもらうことにした。やし園に着いてからやしの木を一本一本見てまわり、そのうちに彼が倒れて死んでいるやしの木の根っこをみつけた。彼がそこに死んでいるのを見てまずわたしが最初にしたことは、もよりのやしの木に登り、自分でやし酒を採集し、現場に戻るまえにやし酒を心ゆくまで飲むことだった。それから、やし園までついてきてくれた友達の助けをかりて、やし酒造りが倒れていたやしの木の根っこに穴を掘って、彼を埋めてお墓をつくり、それからわたしたちは町へ帰った。

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