パラダイス・サーティー!
なんて素敵な言葉でしょう…。
あら!と、思わず本屋でテンションが上がってしまい、イソイソとレジにむかったのでありましたが、それも「そうよ、30代はパラダイスよ!」…と思いたい心境の私には、実にぴったりの言葉だったから、なのである。まさに、タイトル買い。年齢を聞かれるたびに「パラダイス・サーティーです」と意味不明の答えをする私は、文字通りパラダイスな気もしている、32歳である。
そんな理由で本書を買ったようなものだが、読んでびっくりの暗転たっぷりの物語。
30前の独身女性(結婚したくてもできない&そして焦っている)が主人公が小説の設定だが、世の中言われているように会社でも「お局様」扱いをされ…そんなあまりにも安易なステレオタイプの女性を乃南アサが書くはずはないと思ったら、まさに…!!
私も仕事で 20代の終わりにさしかかるころには、「もう30歳かぁ」「もうすぐ大台ですね」とか、言われることがあって、正直うっとうしかった。最初は「そうなんです~」と笑って濁していたが、だんだんと「だから何なんだ」と思うようになり、そして「何が言いたいのよ~」と苛立たしい思いに駆られるようになった。
別に30歳はよいのだけれど、それを言われるのが本当にメンドーというのが女性の心理でしょう。
本書の主人公・栗子は「こうやって、ただ歳をとっていくのかしら」――年毎に面白いことは減り、憂鬱なことばかり増えて、日々はますます味気ないものになっていくばかり。29歳の誕生日に痴漢にあい、注意をすると「自惚れんなよ、いい年して」と逆切れされ、そして勤める薬品会社でも、就職当時は“おじさんばかりの職場”だと思っていたら、その“おじさんの集合体”に吸い込まれそうになっている。
別居している父は、水商売の女性のところに入り浸り、母は愚痴っぽく、婚約者のいる弟のせいで家に居づらく、友人で“オナベ”である菜摘の家に転がり込むが、菜摘はバーを経営しており、そこに来た客の小窪に栗子が一目ぼれ。
恋愛をして、栗子の世界がすべて色鮮やかに変わっていったとき、事件は起きた。小窪の仕事は「ビデオとか隠し撮りのカセットテープとか、半分詐欺みたいな、怪しい商品の通信販売」をしていたのだ。
信じたい、信じられない…恋心で曇る栗子の様子がリアルに描かれる
最後は「今のうちに強くなっておけば、30歳からはずっと楽になるよ。そんなに悪いことばかりが続くわけじゃない」と菜摘が慰めれば、「そんなに続いてたまるもんですか。絶対にパラダイスにしてやるんだから」と栗子はいきまく。
しけった新聞紙に火をつけようとしても当然なかなかつかないように、くすぶっている感じの30目前の女性像が、手加減なしに描かれながらも、最後はふっとパラダイス・サーティー、と思わずつぶやきたくなる読後感だ。