これは「ジェッシイ・ストーン」という警察署長を主人公にする警察物のシリーズで、ハードカバーが先行しているから、そっちで読んでいる人も多いかも知れない。文庫ではこれが四冊目、私が「つき合いを止めない主人公」の一人である。
一作目から順に、闇夜を渉る/忍び寄る牙/湖水に消える、そしてこの四冊目が、影に潜む。
タイトルがいい。翻訳ミステリーは、タイトルに惹かれて買ってしまうことが時々ある。このシリーズなどまったくそれであった。
私は、海外ミステリーも、日本の時代小説も連作もの、シリーズものを長く読み続ける傾向があるようで、こうして紹介するときに、一冊目から読んだ方がいいですよというのが、少し心苦しい気もする。気に入った主人公と長くつき合うのが案外楽しい。
亡くなったエド・マクベインの有名な警察小説「87分署シリーズ」はとうとう最初から最後までつき合った。87分署の刑事たちは生きたままなのだが、書き手が死んでしまって、もう新作を読むことができない。そういうことがあった。もちろん、池波正太郎さんが亡くなって、鬼平や、小兵衞さん、あるいは梅安の新作が読めなくなって寂しい思いをしたファンも多いだろう。
さて、ジェッシイ・ストーン。アメリカのミステリーを読み続けている人には、お馴染みの「主人公のアルコール依存症」という悩み。この本の主人公ストーンも、ほぼ治ったといってもよさそうだが、まだまだか。
アルコール飲料をまったく飲まないでいられるようにならない限り完治といえないとすれば、ストーンはまだ治っていない。時に酒を飲まないではいられない時間が来る。
酒を飲んで、俺は大丈夫だ、と心の中で確認することがあるあたりが「あまり大丈夫じゃない」というわけだ。女性と食事をするときにアルコール飲料を口にしないでいたりするくせに、家に戻って飲んでしまったりもする。離婚してそうなったんだったか、それが原因で離婚したんだったか、それは第一作目を読んで欲しい。
いわゆる「酒でボロボロ」になっていた。
酒から逃れられなくて、また離婚の痛手から立ち直れなくて警察官の職を失い、西海岸から東海岸に流れて来た。実は、今彼がいる街に呼ばれてやって来たのだ。
街を牛耳っていこうとする「あくどい」人間が、自分の都合のいい警察官を署長に据えようと、彼を警察署長にした。自分が好きなように操ることができる「駄目警察官」を探していた街のボス。権力と金を持っていて街の支配を確固としたものにするために、警察署長に自分に逆らえない人間を据えたというわけだ。
「俺がお前を拾ってやったんだぞ」と言い続けるつもりだった。俺の邪魔をする人間を、警察権力で抑えろ、それでお前は給料をもらえるんだ、という、アメリカ映画なんかに出てくる、地方のボス。
このあたり、前の三作を読み返してしっかり内容を確認して書いているのではないので、完全に正確とはいいにくい。それにミステリー紹介で「言ってはいけないこと」が多々あるので、縁取りがぼんやりした物言いになってしまうのは許して欲しい。