さだまさしのアルバム「帰去来」(1976年、さだがソロになってはじめて発表したアルバム)に「童話作家」という曲が収録されている。
その曲では「私が童話作家になろう」と思ったのは、「あなたにさよならを言われた日」なのだ。
筆者の場合、「童話作家になろう」と思ったのは、「本書との出会い」と言っても過言ではない。
幼稚園の年中さんだったわが子のために、買った本書を読み聞かせるうち、「こんなすてきなお話を自分も書いてみたい」と強く思ったのだった。
一介の会社員に童話作家になろうと思わしめた、そんなすばらしい名作を今回は紹介してみよう。
こんはきつねのぬいぐるみ。おばあちゃんから赤ちゃんのおもりをするようにと、さきゅうまちからやってきた。
ねてばかりの赤ちゃんも、やがてはいはいをするようになり、歩き出し、いつしかこんと仲良く遊ぶ少女になった。その子の名はあき。
あきが大きくなると、こんはぬいぐるみだから当然古くなる。
ある日、こんのうでがほつれてしまったのを、あきが心配すると、「だいじょうぶ。さきゅうまちに帰って、おばあちゃんになおしてもらうから」とこんは言う。こうしてふたりは、遠く離れたおばあちゃんの家まで旅行をすることになるのだ。
道中、お弁当を買いに行ったこんが、列車のドアにはさまれて動けなくなったり、砂丘で野犬におそわれるというハラハラする事件がおこる。
でも無事におばあちゃんの家にたどりつき、こんはきれいに直してもらえるというストーリーである。
どんなピンチのときもこんは、「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と言ってあきを安心させる。
このこんの言葉に、当時仕事のストレスにさらされていた筆者はどれだけ心が休まったことだろうか。
やわらかなタッチの絵とゆったりとしたこんのキャラクターが、読者(とくに大人)を魅了する。
子育てに忙しいお母さんも、仕事に追われるお父さんもぜひ味わいながら、お子さんに読み聞かせしてあげてほしい絵本である。
本書は「Amy and Ken Visit Grandma」と題してアールアイシ出版から、英語版も出版されている(ピーター・ハウレット+リチャード・マクナマラ 翻訳)。