ムルソーは週末になると、またマリイと海へ行った。太陽の下で、ふたりはいちゃつく。マリイは訊いた、わたしのこと、愛してる? ムルソーは言った、たぶん愛してないとおもう。マリイは悲しい顔をした。部屋へ戻ると、例のジゴロのレエモンの部屋で、怒鳴り声がする、女と揉めているようだ。しかもレエモンは女絡みで、素性の怪しい連中に狙われているようだ。さて、お話変わって、マリイはムルソーに言った、あたしと結婚しない? ムルソーは答えた、どっちでもいいけど、きみがしたいならしてもいいよ。マリイは訊いた、あたしのこと、愛してる? ムルソーは答えた、だからまえにも言ったじゃないか、そんなことなにも重要じゃないんだ。
ムルソーは上司にパリ勤務の話をもちかけられる、栄転なのだが、ムルソーは、結構なお話ですが、実を言うと、私にはどちらでも同じです、と答える。上司は、きみには野心がなく、それではいささか困るな、とこぼす。
ある日、ムルソーは、ジゴロのレエモンとかれの友人マソンと一緒に海へ泳ぎに行く。レエモンとかれを追う追手(情夫の兄)との揉め事に巻き込まれ、ムルソーは、自分に向けて匕首を引き抜いたアラブ人を、おもいがけず射殺してしまう、泉のそばで。
そして物語の後半は、投獄されたムルソーの監獄での日々と、被告になったムルソーが裁かれる裁判が描かれる。ムルソーは弁護士を雇わない、したがって裁判所の選んだ選任弁護士がつく。ムルソーの弁護士は、ムルソーが母親の葬儀で冷淡に見えたことが責められる可能性を考慮し、あらかじめムルソーに訊いた、母親の死に苦痛を感じなかったのか。ムルソーは答えた、ほんとうのことを説明するのは難しい、健康な人間は誰でも、多少とも、愛する者の死を期待するものだ。すると弁護士はひどく興奮し、そんなことは法廷でも、予備判事の部屋でも口にしないことをムルソーに約束させた。
予備審査室に呼ばれたムルソーは、すでに「口数も少なく、内に閉じこもりがちな性格」に見られている、そのことを自分でどう考えているか、尋問される。ムルソーは答えた、言うべきことがあまりないので黙っているわけです。かれはうながされて例の一日を陳述する、レエモン、浜辺、海水浴、争い、浜辺のちいさな泉、太陽、ピストルを五発撃ち込んだこと。判事は熱烈なキリスト教徒であり、ムルソーの淡々とした陳述に苛立ちを隠さない。
判事は大声を上げた、「人は誰でも神を信じている、神に顔をそむけている人間ですらも、やはり信じているのだ。」(それなのにあなたは…)というわけである、「わたしの生を無意味にしたいのですか?」こうしてムルソーは、いつのまにか反キリスト教者に仕立て上げられてゆく。ただしこれはまだ予備審査にすぎない、かれは独房暮らしを数日過ごし、ある日、護送車で裁判所まで運ばれる。
裁判にはムルソーの知り合いたちが証人として揃っている。老人ホームの院長。門衛。トマ・ペレーズ老人。レエモン。マソン。サラマノ。そしてマリイ。(なぜか、レエモンの情婦の現地系混血女は呼ばれていない)。証言者たちの多くはムルソーを弁護したいとおもっているが、しかしけっきょくのところ誰ひとりムルソーを巧く弁護することができない。
証人いわく、「わたしに言わせれば、あれは不運です。不運がどうゆうものであるか誰でも知っています。われわれには防ぎようがありません。そう、わたしに言わせれば、あれは不運です。」むろんそれはなんらムルソーの弁護に役立たない。裁判では、判事のリードで、ムルソーの日々の断片が繋ぎ合わされ、ムルソーはどんどん悪人らしく仕立て上げられてゆく。母親の葬儀で涙を見せなかったことも、カフェオレを飲んだことも、葬儀の翌日海で泳いだことも、女と寝たことも、友達がジゴロであることも、すべてが犯罪者ムルソーというプロファイル作りに貢献してゆく。