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Final Exits:The Illustrated Encyclopedia of How We Die

人生いろいろ、死に方もいろいろ。

MichaelLargo
Harpercollinsノンフィクション] 海外
2006.10
>>書籍情報のページへ
レビュワー/山崎まどか

こんな統計に興味はあるだろうか?
アメリカで最も自殺者が多い職業は美術関係のアーティスト。特に女性では、激務の看護婦を抜いて画家や彫刻家などのアーティストの自殺率が高い。白人男性に絞ると二十代の医師がトップ、黒人男性の場合は警備員や警察官がそれに代わる。西海岸では孤独な羊飼いたちがこれらの職業を上回る自殺率だ。
最近の日本食ブームのせいで、2000年から04年の間に二十三人がフグの毒に当たって死んだ。ひねりを入れた回転技など、どんどん高度に、危険になる技術のせいで、95年から現在までで百二十三人のチアリーダーが死亡、七百八十二人が事故で体が麻痺状態になっている。カーニバルで人間大砲が流行ったのは南北戦争後、1871年に最初の記録が残っている。この危険な技は挑戦した半数が死亡、早くも1890年にはニューヨークで「人間大砲禁止令」が出ている。外見を気にして拒食症で死ぬ女性はこの病の死亡者の20%を占め、現在も増加中だが、それでも大きな割合を占めるのは七十才以上の老人である。毎年アメリカでは、約千九百八十人がクラゲに刺されて死に、約二千九百人がバレンタイン・デーの前週に自殺する。
1975年以来、事故に遭って死んだ夢遊病者は五千三百六十六人。1965年以来、動物園の動物に殺された人の数は千五百七十人にのぼる。

人は死ぬ、戦争で、災害で、予期せぬ事故や病気で。この本は、1700年代から現代までのアメリカの歴史における人の死因を項目別に紹介する、「死に方百科辞典」である。
四百ページ以上に渡って、A to Z方式で紹介される死の項目はバラエティに富んでいる。狩り、自宅出産、バンジージャンプといった危険に想像がつくものから、たまごっち(Electronic Pet)、ポップコーン、くしゃみといった意外なものまで。

「空飛ぶ牛」、「動物の人質」といった奇妙な項目もある。後者には1994年にオレゴンで起こった事件が描かれている。二十三才のジャネット・S嬢は、片手に自分が飼っているシャム猫の襟首を、もう片方の手に包丁を握りしめ、食糧雑貨店に押し入って叫んだ。「金をよこしな! さもないとこの猫の命はないよ!」
猫は彼女の手からするりと逃げた。その後も往生際が悪くナイフを振り上げて抵抗したためにジャネット嬢は警察に撃ち殺された。まるでよく出来たコントのようだが、本当の話である。
この百科辞典は、そんな死にまつわる「嘘のような本当の話」の宝庫なのである。

聞いたこともないような病気の数々も興味深い。精液アレルギーの女性がいるなんて、想像できただろうか?夢のような新婚のベッドから、病院に直行して亡くなる花嫁もいるのだ。
そう、ミステリーを書く作家ならば、この本は必携だろう。自分が考えたトリックのリファランスや裏付けになるだろうし、この本をパラパラめくってアイデアを探すことも出来る。

ネタ元になるのはミステリーばかりとは限らない。「記憶喪失」の項目を見てみよう。2003年の夏、メリーランドの海辺の街に住む人々が、次々に記憶喪失になるという怪奇現象が起こった。ドライブ中に突如車の運転を忘れる人がいたために交通事故が急増し、自分の家が分からなくなって他人の家に押し入った人が銃で撃たれるという事件まで起きた。
やがて、それが近くの湾に発生した微生物の排泄物が人間の脳に及ぼした影響であることが明らかになる。これなど、SF映画にもホラー小説にもなりそうな話だ。

もちろん、ちょっと不謹慎なトリビア本としても充分に楽しめる。死は誰にでも平等に訪れる。だから、ここに書かれている奇妙な話の数々は決して他人事ではなく、どれもが身近だとも言えるのだ。

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Final Exits : The Illustrated Encyclopedia of How We Die
MichaelLargo
Harpercollinsノンフィクション] 海外
2006.10  
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