レクイエム─ある幻覚
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著
アントニオ・タブッキ
訳
鈴木昭裕
白水社
/白水Uブックス
[小説]
海外
1999.07 版型:新書 ISBN:4560071306
価格:998円(税込)
七月は灼熱の昼下がり、幻覚にも似た静寂な光のなか、ひとりの男がリスボンの街をさまよい歩く。この日彼は死んでしまった友人、恋人、そして若き日の父親と出会い、過ぎ去った日々にまいもどる。タブッキ文学の原点とも言うべきリスボンを舞台にくりひろげられる生者と死者との対話、交錯する現実と幻の世界。
おすすめ本書評
- アントニオ・タブッキ『レクイエム』
南欧そのものへのレクイエム
本書の感想を書いたものを、いくつかネット上で拾い読みしてみました。ポルトガル料理が食べたくなった、リスボンの街を歩きたくなった、新鮮なオレンジジュースが飲みたくなった……。確かに、まったく同感です。
本書の舞台となるのは、夏真っ盛りのリスボン。キリコの絵画を思わせる、時間の止まったようなポルトガルの首都。その白昼の町並みを「わたし」が歩き、出会った人々と語り合うわけですが、その道すがらで主人公は、肉と臓物の煮込みやインゲン豆のスープ、各種のリゾットなどに舌鼓を打ち、果物のスモルで喉を潤します。これが実に旨そうなんですね。
とはいえ本書は『地球の歩き方』ではないので、これだけでは終わらない。「わたし」がリスボンの路上で出会う人々は、ちょっと変わった人ばかりです。最初に出会うことになるのは、どこにでもいそうな麻薬中毒の青年。けれども二番目に出会う「足の悪い宝くじ売り」は、なんと「主人公が読んでいた書物の登場人物」なのです――
樋口ヒロユキ
2010/11/04掲載
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