とにかく、バツグンに面白かった文芸誌『en-taxi』に連載の『談春のセイシュン』。「修行とは矛盾に耐えることだ」という師匠・立川談志に、必死になってついていく、談春をはじめとする弟子たちの右往左往。同時に、理不尽さの中に真実をのぞかせる師匠に対する、実は心の奥底のやるせないばかりの弟子たちの“思い”。『談春のセイシュン』は、落語修行時代のできごとを、ものの見事に活写した、笑わせ、泣かせ、唸らせる、まさに天下無敵の連載であったのだ。
その連載がついに待望の単行本となった。立川談春『赤めだか』。面白くないわけがない。
そして、その師匠・立川談志による『談志絶倒 昭和落語家伝』。昭和の落語界を支えた26人の師匠連について、その芸を、思い出を綴った本である。田島謹之助による当時のモノクロ写真と対になった談志の文章は、語り口そのままに、リズミックでいて緩急自在。そう、あの絶妙な語りが紙の上で展開されているわけで、声だけではなく、動作、仕草までが目の前に浮かんでくるかのようだ。談志は落語の名人であるが、落語について語るということにおいても、やはり飛び抜けた名人だ。その落語家論がこうしてしっかりしたカタチとして残ったことの価値はとても大きいと思う。
さらにダメ押し。立川志の輔、玄侑宗久による『21世紀のあくび指南―志の輔・宗久おもしろ落語対談』。志の輔が立川流の出世頭であるのはご存知のとおり。その公演は、当日ソールドアウトが当たり前。会場内に爆笑の渦を常に巻き起こす、まさに脂が乗り切っている落語家だ。玄侑宗久は臨済宗の僧侶であり、芥川賞受賞の作家でもある。話の名人・2人による落語をめぐる当意即妙なトークセッションが本書。これもまた面白くないわけがない。
TVドラマ『ちりとてちん』は終わったが、落語ブームはまだまだ続いている。そして落語本も、まさにブームといえる刊行ラッシュ。そんななかにあって、これだけハイレベルの本を連発する「立川流」、まさに恐るべしである。
レビュワーは『笑芸人』編集者であり、落語の師弟関係にスポットを当てた単行本『師匠噺』の著者でもある、浜美雪さん。たっぷり、じっくり、落語本の世界をお楽しみください。
ちなみにこの3冊、落語ファンでなくても充分に楽しめます。それから、立川談春の早くも名作『赤めだか』は4月11日に発売されたばかり。プロの書き手による詳しい書評掲載としてはまだ少なく、この【Book Japan】が相当に早いはずです。エヘン。