7月16日(水)
「兄イワン」の章の最後のあたりで、イワンが、とうとう気を狂わせた。
顛末は、こうだ。
ドミートリーの裁判の前夜、スメルジャコフの衝撃的な犯行自白を聞かされたイワンは、帰宅後に幻影の悪魔に言葉責めをされることとなり、完全に精神を壊してしまう。その後、スメルジャコフの自殺を報せるべく訪れたアリョーシャは、その異常な様子を目にしてしまうわけだが、イワンが本来ある信心と意志による不信心の狭間に立ったことで深く苦しみ、良心の呵責に耐えられなくなったものと捉え、そのことに大きな感銘を受ける……。
正直、このくだり、無信心者である自分には、非常に理解しがたい内容のオンパレードとなっていた。例によってリアリティが伴わず、かなりいらいらさせられた。本日の読書は、最終章「誤審」を残すところで、またもや苦行を強いられたなという印象が強い。
ただし、単純に読み流すには終われない面も、たしかにあった。
じつは、信心・不信心の問題で人間の心が壊れるという可能性については、思い当たる節がなくもなく、読中読後にそのことが何度も頭をかすめてしまったのである。個人的な体験でまことに恐縮なのだが、本日は、それについて書いておきたい。
そう、あれは20数年前のことだ。
仕事先で、一人の女性のことを好きになってしまった。ある日、なんとかデートに誘うことに成功し、楽しい時間を過ごすこととなった。最初のデート故、その日中になんとかしようという目論見はまったくなかった。しかし、しこたま飲酒したことも手伝って、なんとなくいい雰囲気となり、なりゆきで同じ屋根の下で夜を過ごす運びとなった。まさかの幸運。まだ気の優しい青年であったこちらは、彼女を大切にする意味も込め、おずおずと行為に臨もうとしていた。だが、彼女のほうが、意外にも非常に積極的。腰が引けるくらいにうれしい攻撃を波状で仕掛けてきた。まさに、歓喜の夜。へとへとになりながらも、二人は身も心も満ち足りた時を過ごし、平和に眠りに就いたのだった。ところが、翌朝のことだ。熟睡していたこちらの耳に、突然「ぎゃー」という叫び声が届いた。目を開けると、彼女が両手で髪をかきむしりながら目をむいていた。そして彼女、「どうしよう、取り返しの付かないことした!」と言葉を発したかと思ったら、そそくさと衣服をまとい、速攻で部屋を後にしたのだった。こちらは、なにが起こったかわからず、その場に呆然としたまま取り残される格好となった……。
その後は、仕事先で顔を合わせても、完璧に無視。恋はたった一夜で、謎のまま終わっていたのだった。問いただすのもはばかられたため、大いなる疑問を抱えながら1年近くを経ることとなった。そのうち彼女も退職し、事件のことは記憶から遠ざかるようになっていた。そんな平穏なある日のこと、なにげなく彼女の上司との談笑していたら、彼女についてのこんな話がでた。「じつはあの人は◎◎教の熱心な信者で、入信していない者はケモノか悪魔であって、人間じゃないって思っていたんだよねえ」。謎は一瞬にして解けた。そうか、彼女はケモノと関係をもったことに、ああまで心を取り乱したんだ。心のつっかえが取れたことで、かなりすっきりとしたわけだが、置き去りにされた朝よりも、ある意味、かなり深く傷付いたものだった……。
とくに結論はない。
信心・不信心はやっかいな問題を生みだす可能性が大きいということだけをいいたかった。イワンの苦悩は、だから、レベルはちがえど、われわれの身近にもいっぱいあるということだ。
え、もっと読書に集中しろって?
いや、だから、最初にいったように、本日は集中できる読書ができなかったんだって。
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