7月4日(金)~7月6日(日)
東京は、ことし初の気温30度超え。
こんなくそ暑い日に、ゾシマ長老が亡くなる直前の重苦しい述懐の箇所を読むことになった不運を呪う。体感温度の高いところに知恵熱が加わり、暑苦しさはマックス。屋外プールの冷たい水に入って頭を冷やしたところで、さほど効果はなく、深夜のいまも冷めない余熱に悶え苦しんでいる。
もし、この夏休みに『カラマーゾフの兄弟』の読書に挑もうと考えている人がいたとしたら、ぜひ、忠告しておきたい。「せっかくの夏休み、台無しにしないで」と。「挑戦は、涼風吹く季節まで待たれほうが賢明ですよ」と。
ということで、本日の日記は、沸騰した気分と熱気を落ち着かせる意味で、ゾシマ長老の印象的な言葉の一つを“写経”するに留めておくことにする。19世紀の俗世のことをいいながら、なんだかインターネット時代の荒涼とした世相を衝くような内容に刮目されたし。ちょっと長い。読後に発熱しても責任は負えない。
〈俗世は自由を宣言した。最近はとくにそうである。では、彼らの自由に見るものとははたして何なのか。それはひとえに隷従と自己喪失ではないか! なぜなら俗世が説いているのは、こういうことだからだ。「欲求があるのならそれを満たすがよい。……(中略)……欲求を満たすことを恐れず、むしろ欲求を増大させよ」これこそが、俗世における現代の教えなのだ。ここにこ自由があると見ている。
では、欲求を増大させる権利から生まれるものとは、はたして何なのか? 富める者においては孤立と精神的な自滅であり、貧しい者においては羨みと殺人である。なぜなら、権利は与えられているものの、欲求を満たす手段はまだ示されていないのだから。
彼らはこうも説いている。世界はこの先ますます一体化し、兄弟の結びつきが強まるだろう、ましては距離がちぢまり、思想は空気をつたって伝達される時代なのだからなおさらのことだ、と。
ああ、こうした人間同士の一体化など、けっして信じてはいけない。自由というものを、欲求の増大とそのすみやかな充足と理解することで、彼らは自由の本質を歪めているのだ。なぜなら彼らはそこに、数多くの無意味でおろかな願望や習慣、このうえないばかげた思いつきを生み落としているからだ。彼らはただ、おたがいの羨みや欲望、虚栄のためにだけ生きているにすぎない。……(中略)……そのために人々は、命や、名誉や、人間愛までも犠牲にしてその必要性を見たし、それができないとみるや、自殺さえしかねない〉。
きのう土曜日は、練馬の高野台にある『串焼き ごっち』で大学の同級会。
すでに死んだ奴がおり、病気になった奴もおり、そういうことを肴にしながら、集まった十数人で約7時間、延々と飲みつづけた。このとき一番飲んだのは68歳の恩師。とりあえずのビール数本に加え、八海山をたぶん一升以上は軽くこなしていた。50歳直前のわれら元学生たちはヘロヘロになりながらも、その姿を見て、「まだまだいける。老け込むのは早いな」という勇気をもらった。
本日、日曜日は、その土曜の酔いを残しつつ正午過ぎに起床。再放送の『なんでも鑑定団』を観ながら食事した後、妻と子どもを連れて、自宅近くのカフェの名店『カフェ・フレスコ』へ。
美味しいアイスカフェラテ(エスプレッソ少なめ)をいただきながらぼんやりしていると、隣のテーブルに座っていた青年2人が「好きな女にコクるなら、ペニンシュラあたりのホテルで5万円くらいの食事をしながらがいい」というようなことを話し合っているのがもれ聞こえ、いきなり覚醒。金さえ使えば女がモノになるって発想がいつの時代も不変であることを確認しつつも、こいつら若いのにずいぶんと残念な考え方をするんだなとの批判が頭をもたげ、心騒ぐ。
そういえば、俗物の代表のように描かれているカラマーゾフ家の父フョードル55歳は、第2巻を終わった時点で、三千ルーブルを用意して長男のドミートリーと奪い合っているグルーシェニカがなびくのを待っている。はてさて、どうなることやら。カフェの青年たちの恋の行く末は知りようもないが、フョードルの老いらくの恋の行方は、たぶんこれから読みはじめる第3巻に明らかになっていることだろう。
ところで、四方山話ついでに、お金の話。
6月25日の日記にも書いたが、当時のルーブルの価値がわからなくって困っている。三千ルーブルとはいまでいうと、いくらぐらいなのだろうか。まさか300万円程度ではないだろう。つい最近ここ日本では、しばらく知らないふりをしててねということで、中国茶の箱に1,000万円入っていた。自分の女になれ、というのは、もうちょっと高いだろう。3,000万円ぐらいなのだろうか……。いぜれにしても、当時のルーブルの価値について知っている人がいたら、教えてほしいものだ。
以上、そんなわけで、土・日は『カラ兄』安息日であった。
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