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尾山慎二さんに聞く「『宇宙飛行士オモン・ラー』とゴーゴリの子供たち」(後編)

編集者と兼業して

―― そういえば『チャパーエフと空虚』も逸脱の連続ですね。革命直後と現代のロシア、ふたつの世界を主人公のピョートルが冒険する……と、まとめていいのかどうかわかりませんけど。すごく変な話。シュワちゃんの話のほかにも悪夢的なエピソードがいくつも入ってきて、そのうちのひとつにはなぜか日本人が出てきます。

尾山 セルジュークという人が、タイラ商事という日系企業の入社試験を受けに行くんですよね。適当にしゃべっていた言葉が偶然五七五になっていて、「なんて高尚な歌を詠む教養人なんだ!」みたいに評価されたりして速攻で採用されるんだけど、もてなされている間に、ミナモト・グループという会社に敗れたみたいなファクスが来るという。

―― 入社試験の内容もシュールだし、ミナモトに負けた後もあり得ない展開になる。ゴーゴリの子供たちの中でも、ペレーヴィンは独特の存在感がありますね。未訳のものもけっこうあるようですが、尾山さんのオススメは?

尾山 『チャパーエフと空虚』の後に出た『ジェネレーションP』という長編は、ぜひ誰かに訳してもらいたいですね。主人公はコピーライターで、ロシアの政治がじつは全部メディア企業がつくったCG映像だったり、ドラッグでトリップして神話的世界に入り込んだりとか、いかにもペレーヴィン的な小説で、今年ロシアでは映画にもなったみたいです。YouTubeで予告編が見られるんですけどめちゃくちゃおもしろそう。

―― それにしても尾山さんみたいなタイプの兼業翻訳家は珍しいんじゃないかと思うんですけど。編集者もまったくいないわけじゃありませんが、研究者と兼業している人が多い気がします。

尾山 どうでしょうかね。とくにマイナー言語の文学の翻訳はお金的に厳しいので、基本的に皆さん、何らかのかたちで兼業でやられているのではないでしょうか。研究者じゃないほうがしがらみなく自由に動けるのかなと思える半面、研究者だったら、やっぱりしっかりとアンテナを張れるぶん、いい作品を見つけられるのかなと思ったりもします。でも、どっちにしろこの分野は、誰がやっても大変でしょうから、ともかくも気合いがすべてという感じはしますね。

―― また翻訳をしたいという気持ちはありますか?

尾山 『オモン・ラー』を訳してから別の出版社に転職して、今は編集のほうに没頭していまして。当面、編集者として読書界に貢献していければという感じです。もちろん海外文学でも、広い読者を狙えそうな作品があれば、ぜひいい訳者さんを立てて紹介できればと思っています。

(おわり)

尾山慎二 おやま・しんじ
1976年生まれ。早稲田大学文学部第一文学部ロシア文学専修卒。書籍編集者・翻訳者。訳書に『チャパーエフと空虚』(三浦岳名義)、『宇宙飛行士オモン・ラー』がある。



【尾山慎二さんの訳書】

『宇宙飛行士オモン・ラー』
ヴィクトル・ペレーヴィン 尾山慎二
小説] 海外
2010.06  版型:単行本 ISBN:4903619230
価格:1,575円(税込)
『チャパーエフと空虚』
ヴィクトル・ペレーヴィン 三浦岳
群像社小説] 海外
2007.04  版型:単行本 ISBN:4903619044
価格:2,415円(税込)

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