書評の楽しみを考える Book Japan

 
 
 
トップページ > B.J.インタビュー > vol.8 格差・女子コミュニティー・母娘…アラサー女子のための『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』【辻村深月】

格差・女子コミュニティー・母娘
…アラサー女子のための『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』
【辻村深月】

「価値観のレースに無理矢理エントリーさせられているような、この違和感の正体は何なのか。小説でしか導き出せない糸口、結論をカタチにしました」辻村深月×三浦天紗子

最新刊『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』は、アラサー女子の懊悩に迫る意欲作

──(以下、三浦天紗子)『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』(講談社)の衝撃がいまだ抜けきらない中でインタビューさせていただくので、やや興奮気味です。周囲の人間にこの小説をどう読んだかと聞くと、実にいろんな答えが返ってきました。

辻村 そうですね。私自身もちょっと驚くくらい、共感なり反発なり、何かを感じてくれたポイントが人によって違うんですよ。
東京と地方との地域格差や、モテるモテないといったモテ格差の「格差小説」と読んでくれた人もいたし、「女子コミュニティーの小説」と読んだ人もいた。「母と娘の問題」がテーマだと読んだ人もいました。ただ、母娘の話だというところまでは同じでも、このラストを、無償の母の愛として捉えた人もいれば、娘は結局は母の支配から逃れられないのだと考えた人もいるんです。「希望」と取るか「呪い」と取るかは、これまでその人が読んだり見たりしてきたものや、歩いてきた人生の道のりが顕著に反映されるのではないかと思います。

── それだけたくさんのテーマを内包した小説だということですね。

辻村 結論の読み方にしても、タイトルの解釈にしても、ここまではっきり受け止め方の違いが表れたのは、私のこれまでの作品にはなかったことです。

── 表題がまた秀逸です。「タイトル大賞2009」というのがあったら、間違いなく1位に推したいタイトルです。

辻村 うれしい、ありがとうございます! 帯文に「──娘は母を殺せるのか?」とあるんですが、これは「娘は母を許せるのか?」と同義だと思います。仮想敵にもいちばんの味方にもなりうる「母という存在」を、自分の中に取り込んでどう解釈できるか。私なりにこの小説を書きながら、女子たちの複雑な思いに触れて、なおかつ「母と娘の関係」をどう表したらいちばんしっくり来るのだろう、と考えに考えて出たのがこのタイトルなんです。結果的には、これ以外にないという題名になったと思います。

これまではいつも、題名を読めばミステリーらしいとか学園モノだろうとか何となく中身が透けて見えて、なおかつ、読めば「なるほど」と思ってもらえるようなネーミングがいいかなあと思い、それに沿う形で考えていたんですね。デビュー作の『冷たい校舎の時は止まる』(講談社文庫)はその典型だし、『太陽の坐る場所』(文藝春秋)はもう少しレトリックが強いけれど、読後には「わかる気もする」と言ってもらえるようなものだし。

私が読んできた好きな小説の中には、タイトルが詩の一節のようだったり、すんなり意味が入ってこなかったりするものも多いんです。最初は表題と中身の関係がよくわからなくても、読んでいるうちに「ああそうか」と腑に落ちるのがいちばんいいタイトルだと憧れていた反面、「こんな奇妙な書名、ずっと覚えていられるかな?」と不安になって、突拍子もない題はなかなかつけられなかった。ですから、タイトルを見ただけでは「???」って思われてもいいと勇気が出た作品は、これが初めてです。

── 最初に見たときは、本当に何の暗号だろうと(笑)。

辻村 実はタイトルにちなんだちょっとした笑い話があって。私の母校で、恩師の一人が、朝礼か何かのときに「あなた方の先輩に小説家がいて、こういう本を出版しました」と紹介してくれたらしいんです。それはとてもうれしいけれど、その先生は「タイトルは、『ロチロナ ゼハゼロ』です」って朗々と縦書き読みを(笑)。カバーの字組のデザインが少し変わっているので、そう読んでしまうのもわかるんですよね。

── 意味がわからなくても応援したいという先生の気持ちがあったかい。いい話です。

辻村 何だかハワイ語みたいにも見えなくないし、申し訳なかったなと。

ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。
辻村深月
講談社小説] 国内
2009.09  版型:B6
価格:1,680円(税込)

辻村深月が29歳の“いま”だからこそ描く、感動の長編書き下ろし作品!

「お母さん。これは、ひどい」
――娘は母を殺せるのか!?
結婚、仕事、家族、恋人、学歴、出産――社会の呪縛は、娘たちを捕らえて放さない。
だからこそ、すべての女子は『箱入り娘』である。

“30 歳”という岐路の年齢に立つ、かつて幼馴染だった2人の女性。都会でフリーライターとして活躍しながら幸せな結婚生活をも手に入れたみずほと、地元企業で契約社員として勤め、両親と暮らす未婚のOLチエミ。少しずつ隔たってきた互いの人生が、重なることはもうないと思っていた。あの“殺人事件”が起こるまでは……。
>>詳細を見る


『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』については書評も収めていますので、ぜひお読みください。
レビュワー/三浦天紗子 書評を読む

boopleで検索する

お探しの書籍が見つからない場合は、boopleの検索もご利用ください。Book Japan経由でのご購入の場合、Book Japanポイントをプラスしたboopleポイントを付与させていただきます。

booplesearch


注目の新刊

Sex
石田衣良
>>詳細を見る
失恋延長戦
山本幸久
>>詳細を見る
自白─刑事・土門功太朗
乃南アサ
>>詳細を見る
ガモウ戦記
西木正明
>>詳細を見る
怨み返し
弐藤水流
>>詳細を見る
闇の中に光を見いだす─貧困・自殺の現場から
清水康之湯浅誠
>>詳細を見る
すっぴん魂大全紅饅頭
室井滋
>>詳細を見る
すっぴん魂大全白饅頭
室井滋
>>詳細を見る
TRUCK & TROLL
森博嗣
>>詳細を見る
猫の目散歩
浅生ハルミン
>>詳細を見る
さすらう者たち
イーユン・リー
>>詳細を見る
猿の詩集 上
丸山健二
>>詳細を見る
ポルト・リガトの館
横尾忠則
>>詳細を見る
ボブ・ディランのルーツ・ミュージック
鈴木カツ
>>詳細を見る
カイエ・ソバージュ
中沢新一
>>詳細を見る
銀河に口笛
朱川湊人
>>詳細を見る
コトリトマラズ
栗田有起
>>詳細を見る
麗しき花実
乙川優三郎
>>詳細を見る
血戦
楡周平
>>詳細を見る
たかが服、されど服─ヨウジヤマモト論
鷲田清一
>>詳細を見る
冥談
京極夏彦
>>詳細を見る
落語を聴くなら古今亭志ん朝を聴こう
浜美雪
>>詳細を見る
落語を聴くなら春風亭昇太を聴こう
松田健次
>>詳細を見る
南の子供が夜いくところ
恒川光太郎
>>詳細を見る
星が吸う水
村田沙耶香
>>詳細を見る
コロヨシ!!
三崎亜記
>>詳細を見る
虚国
香納諒一
>>詳細を見る
螺旋
サンティアーゴ・パハーレス
>>詳細を見る
酒中日記
坪内祐三
>>詳細を見る
天国は水割りの味がする─東京スナック魅酒乱
都築響一
>>詳細を見る
水車館の殺人
綾辻行人
>>詳細を見る
美空ひばり 歌は海を越えて
平岡正明
>>詳細を見る
穴のあいたバケツ
甘糟りり子
>>詳細を見る
ケルベロス鋼鉄の猟犬
押井守
>>詳細を見る
白い花と鳥たちの祈り
河原千恵子
>>詳細を見る
エドナ・ウェブスターへの贈り物
リチャード・ブローティガン
>>詳細を見る
人は愛するに足り、真心は信ずるに足る
中村哲澤地久枝
>>詳細を見る
この世は二人組ではできあがらない
山崎ナオコーラ
>>詳細を見る
ナニカアル
桐野夏生
>>詳細を見る
逆に14歳
前田司郎
>>詳細を見る
地上で最も巨大な死骸
飯塚朝美
>>詳細を見る
考えない人
宮沢章夫
>>詳細を見る
シンメトリーの地図帳
マーカス・デュ・ソートイ
>>詳細を見る
身体の文学史
養老孟司
>>詳細を見る
岸辺の旅
湯本香樹実
>>詳細を見る
蝦蟇倉市事件 2
秋月涼介、著 米澤穂信など
>>詳細を見る
うさぎ幻化行
北森鴻
>>詳細を見る

Internet Explorerをご利用の場合はバージョン6以上でご覧ください。
お知らせイベントBook Japanについてプライバシーポリシーお問い合わせ
copyright © bookjapan.jp All Rights Reserved.