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Book Japan 2008 ベストブック10&新人賞 トーク・セッション
in ジュンク堂書店・新宿店 2008年11月28日
【第二部】ベストブック10順位選定バトル 後編(2/5)

朝比奈あすか『声を聴かせて』

●豊崎 はい、わかりました。えっとじゃあ、問題作(笑)。朝比奈あすか声を聴かせて』。
●吉田 もう、みなさんから唯一落としてもいいといわれた作品なんですけれども、あの……。
●杉江 いや、私は擁護しますよ。
●吉田 これ、「声を聴かせて」と、「小さな甲羅」の2編からなっているんですが、表題作より、「小さな甲羅」のほうがいいんですよ。どういう内容かというと、人間関係によって追いつめられて壊れていく幼稚園ママの話なんですね。同じマンションの子たちはみんな3年保育ということで1年早く幼稚園に行っているんだけれども、そのママは、自分の息子は早生まれだからゆっくり育てたいっていうんで2年保育を選ぶんです。しかし1年出遅れたことによって、子供はみんなの輪に入っていけなくなる。さらに息子が幼稚園でいじめにあってることが発覚し、彼女は人間関係がうまくいかなくなって、だんだんだんだん追いつめられていくことになる。そのゆっくり壊れていく様がすごくリアル。私は大人になったらそういうまどろっこしい人間関係とかがいらなくなって過ごせるものと思ってたんですが、自分が母親という立場になってみて、子供がらみでそういういざこざに巻き込まれてしまう悲しさがあることを知りました。たまたま私は、子どもがいるのですごくリアルに感じながら読みましたね。
●豊崎 これって例の事件と関係があるの?
●吉田 音羽の幼女殺害事件? あれはお受験のからみでしょ。これ、お受験がからんでないんですよ(編集部注:角田光代さんの双葉社から出た最新刊『森に眠る魚』が、まさにその事件を題材にした作品です。関心がある方はどうぞ)。
●杉江 主人公の女性がママ友にね、メールでいやらしいメールを打つんですよ。いやらしいって、おもねったようなメールをね。
●吉田 卑屈なんだよね、うん。
●杉江 それがすごくリアリティがあって……。PTA活動をしていると、ああいう派閥の鼻息をうかがうような場面、保護者の間にたしかにあるんですよ。とてもリアル。
●藤田 こんな親はいないだろうとか思う読者もいるでしょうけど、そう思えることがどれだけ幸せか、という気がしてくるね。絶対いると思う。
●杉江 子どもに対して最後に爆発しちゃうんだよね、お母さんが。で、爆発した後に安易な許しを与えず、最後は子どもとの和解を書かないで終わる。あの辺のところもいいと思う。表題作は全然だめだと思いますけれども。
●末國 私は両方とも好きではないですよね。
●杉江 だから「表題作は」だめっていってるでしょう!
●末國 いやいや、表題作の主人公の悩みと、もう1編のお母さんの悩みとが同じなんですよ、子どもの言語的発達が遅れていることに悩んでいたり、母乳に関して悩んでいたり。そういったところが気になったんですよ。
●杉江 母乳に関して悩んだっていいじゃないですか(笑)。
●末國 いや、細部が重要だということを言いたいんです。この人は、似たような悩みを持つキャラクターしか作れないのかと思ってしまいましたよ。
●杉江 厳しいこというなあ。
●末國 厳しいですか。正論だと思いますが。で、表題作に関しては思い切り『鉄道員(ぽっぽや)』(浅田次郎・集英社文庫)なんですよね。どうでもいい、私はまったく興味なかった。
●吉田 超常現象ストーリーの核に使っているんですよね。それはたしかに安易。
●杉江 まあ、でもノイローゼで回収できる話だから。この人の思い込みということで済ませてあげましょうよ。いいじゃん、そんぐらい。
●藤田 そうそう(笑)。まあなにをいいかと思うのは、人によってちがうからね。
●末國 2作目に関していうと、前半はすごいよかったんですよ。最初はお母さんの、ママコミュニティの確執があって、主人公の子供がママグループのボスの子どもをいじめたみたいなメールが届いて、殴ったんじゃない? それをあなたのお子さんに聴いてみてね、みたいな質問が入ってきて、本当かな? とか思うわけですよね。ただ真相はわかんないから、どんどん追いつめられていくわけですよ。それがきっかけとなって、本当に真綿でじわじわしめられていくようなところはおもしろかったんですけれども、妹がでてきて、引っ掻き回しますよね。あそこから、なんか……。
●吉田 でもあの妹が登場人物の中では一番まともだよ。
●豊崎 はいはい。わかりました。いいです、もう。
●吉田 えー。もう終わり?
●豊崎 いや、そうやって褒めるにしても批判するにしても、あまり内容をいい過ぎるとさ、もしかしてこれから読む人にとって不親切になっちゃうと思うんだな、私は。だから、おしまい。次行こうよ、次。

三羽省吾『タチコギ』

●豊崎 はい、次は『タチコギ』。私、名前も知らない人でした。はい。
●藤田 はい。三羽省吾さんの『タチコギ』は、祖母が亡くなったので、病みかけている一人息子を連れて30年ぶりに故郷に戻る男の人の話。
●杉江 炭鉱の町ね。
●藤田 そうです。主人公がかつて炭鉱で栄えた街に戻る話です。で、現在のその主人公と息子の話と、かつて息子と同じ年だったときに過ごした30年前の少年時代の話が、交互に書かれていく。
●豊崎 ビルドゥングスロマンみたいな?
●藤田 少年小説ですね。男の子がいかにして夫となり父となるのか小説。
●杉江 炭坑の街が斜陽になっていく昭和50年代のことを書いた話なんですよ。街は荒み、貧富の差が明確になり、ものすごく悲惨な目に遭う子供がでてくる。例えば野球の試合で、貧しい家庭の子が富裕階層の子供に一矢報いようとしても「お前たちはリーグに入ってないからだめだ」っていわれて、試合すらさせてもらえないの。そんな、大人社会の貧富の差が子供世界にまで反映されていやらしい。これは変形のプロレタリア受難小説ですね。
●藤田 三羽さん、デビュー作の『太陽がイッパイいっぱい』(文春文庫)はガテン系小説で、『イレギュラー』(角川書店)は高校野球小説で、本当にザッツ男子社会な話を得意としてる印象が強かったんですよ。ところが『タチコギ』の次に『公園で逢いましょう』(祥伝社)って新刊がでたんですけれども、それは公園ママの話なんですよ。つまり、彼がいままでやってきた集大成がこの『タチコギ』で、ここからまた新たなステージに上がっていく感じがするんですね。私は個人的に三羽省吾という作家が、今、とても気になるし、注目に値すると思っています。


末

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