『戦争と美術―1937-1945』は、戦時期日本のプロパガンダ美術についての決定的な1冊。所在不明作品も網羅した豊富な図版、論文、関連年表、とにかく内容充実。『世界へと滲み出す脳』は今日における「芸術」享受の幸福な実践例。現代美術論から『少女革命ウテナ』論へと読み進めるうちに、「どんなに美しいものであれ醜いものであれ、見慣れたものであれ未知なものであれ――自らの本質を包みかくさずさらけ出すだけの余裕を与えてやる、素直で寛大な心」(阿部良雄)という言をふと思い出す。『密やかな教育』は、従来「文学性」の冠をあてがわれることで、敬されつつ、まともに論じることから遠ざけられてきた70年代の少女文化における「西洋的教養」とエロスの錯綜、そして「美少年たちの性愛」を欲望するテキスト群の成立の端緒へと切り込んでゆく、快心の「女こども」文化論。『ブリタニキュス ベレニス』では、まさに「攻×受」というべき権力とエロスの関係に絡めとられた高貴な男女が、交わす視線、涙、言葉を武器に、互いの肉体と魂を苛みあう。訳及び注解がすばらしい。『夢の世界とカタストロフィ』は待望の邦訳。冷戦期の米ソ両超大国において想像/創造された「大衆ユートピア」のイメージの並行性を、多数の図版を駆使して浮き彫りにする。旧ソ連の芸術家たちが描いてみせた「夢」の今なお抗いがたい魅惑に、それが破局した後の世界に生きる我々はいかに対峙すべきか、という問いかけも重要。